ファージ提示法

ファージ提示法

ウイルス(ファージ)の新しい利用方法:ファージディスプレイ法(ファージ提示法)

ウイルスは動植物や微生物に寄生して増殖する微小な構造体であるが、近年この大腸菌ウイルスであるバクテリオファージをつかった新しい利用方法が提案された(ここで「バクテリオ」とは「食い潰す」という意味)。ファージは核酸とそれを守る殻タンパク質から構成されている。このファージの遺伝子にはファージの殻タンパク質をコードする遺伝子も含まれている。この遺伝子に発現させたい(外来の)遺伝子を連結させると、ファージが宿主大腸菌内で構成されるときに一緒に発現され、ファージの殻タンパク質との融合タンパク質として外部に出てくる(「提示される」と表現する)。

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 図1 外殻タンパク質に融合される様子。赤で示した部分が外来の配列部分。

 この提示された融合タンパク質はファージの表面に存在するため、様々な分子と相互作用することができる。この基本原理を活用し、様々な融合タンパク質を提示したファージを調製し、その集合をライブラリー化したものをファージライブラリーという。この手法を開発したのはミズーリ大学のG.P.Smithらのグループで、1985年に基本原理を、1990年には標的分子に結合するペプチド(のちにタンパク質や抗体でも可能であることが報告される)をライブラリーから効率よく同定できることを示した(文献1および2)。

親和性選択法(アフィニティーセレクション):バイオパニング

このライブラリーを用いて、標的物質に結合するペプチドおよびタンパク質を得るためには、親和性選択操作を行うことが必要である(図2)。まず、標的となる物質をマイクロプレートなどに固定化する。ファージライブラリー(ファージプール、I)を加えて相互作用させた後(II)、未結合のファージを洗浄する(III)。結合しているファージを溶出して回収し(IV)、大腸菌に感染させて増幅する(VおよびVI)。増幅したファージを精製して再びこの操作を繰り返す。この一連の操作(ラウンド)を数回行うことで、標的物質に結合するファージを濃縮することができる。最終的にはファージをクローニングした後、ファージゲノムの遺伝子を解析することで(VII)、ペプチドおよびタンパク質のアミノ酸配列を同定することができる。実際に標的物質に結合するか否かは、各ラウンドのファージプールおよびクローンを使ってELISAで評価する。

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図2 バイオパニング(親和性選択)

 われわれのグループはこのファージライブラリー法を用いて、様々な分子に結合するアミノ酸配列を同定し、ペプチドやタンパク質の設計に役立てている。このような手法で得られたペプチドやタンパク質は、基礎生化学研究のためのツール、タンパク質の設計原理の解明、また薬剤の開発などに応用展開を行うことが可能である。

References

(1) Smith, G.P., Science, 228, 1315-17 (1985); Scott J.K., Smith G.P., Science, 249, 386-90 (1990).
(2) 松原輝彦・佐藤智典, ファージディスプレイ法,「分子間相互作用解析ハンドブック」,礒辺俊明・中山敬一・伊藤隆司監修,羊土社(2007), pp. 16-22.

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